
こっちのブログもさぼってるなぁ・・。
本日は手塚治虫先生の命日でして。「手塚先生の思い出」といったって、出版パーティーでお会いしたとか、虫プロに持ち込んだとか、そんなかっこいい話ではないんですよね。もちろんですが。
35年くらい前? たぶん中一のとき、となりの尼崎市で原画展とサイン会があったのですよ。手塚先生の。
で、当時のマンガ友達のKと二人で自転車のってかけつけました。興奮してましたねぇ。
マンガ家というのを見るのも初めてだったし、それがよりによって「マンガの神様」ですからねぇ。
会場で色紙を買ってサイン会の行列に並ぶんですが、残念ながら最初から手塚先生のキャラが印刷されてる色紙で、直筆の絵を描いてもらえると思ってたぼくらは少しがっかり。
それでも列の最初の方の子どもたちは、先生手ずからキャラに彩色してもらってました。あれは水彩絵の具だったのかなぁ。マジックということはなかったと思うんだけど。
結局途中から「先生、お時間がありませんから」みたいなことを係員が言って、そっから赤マジックのサインだけになってしまった。先生はニコニコしながら、「色なくてごめんねー、ごめんねー」と子どもたちに一人ずつあやまっておられましたねー。もちろん頭にはいつものベレー帽です。
いよいよぼくの順番が来て、サインをもらって、握手してもらった。
先生の第一印象は、「おっきなひとやなぁ」という。マンガに出てくる手塚先生はひょろっとしてるんですが、とにかく背が高くて大きいと思った。
握手してもらった手も分厚くて大きくて、とてもやわらかかった。
あと、マンガみたいに丸くて大きくてブツブツのある鼻じゃなかった。
血色がよくて、ずっとニコニコニコニコ微笑んでおられました。
声はバリトン?というか、よく響く優しくて、ちょっと鼻にかかったやわらかいお声でしたね。
ぼくもKも、サインしてもらおうと、持ってるありったけの手塚先生のご本を持っていってて(サンデーコミックの「バンパイヤ」や「W3」や「ビッグX」や、新刊の「ブラックジャック」や、「やけっぱちのマリア」、古本屋で見つけてお宝にしてた「ライオンブックス」や虫プロ版の「火の鳥」や・・)、のみならず自作のマンガノートも持ってきてて、「まんが道」みたいに「キミたちのマンガおもしろいよ!」なんて展開を夢見てたのですが、ご本人を前にしてぜんぜんびびってしまってそんなの出すどころじゃなかったですは。
サインいただいてすぐさま色紙をもう一枚ずつ買って、もっかい並びましたね。ぼくもKも。
その後、会場で手塚先生が壇上で模造紙に絵を描くというパフォーマンスがありました。
「なにかわかるかなー。わかったら当ててくださいね」とおっしゃりながら、黒のマジックでスラスラと描いていかれる手塚先生。
2本のツノが描かれたら、
「アトム〜! アトムや〜!!」ミッキーマウスみたいな耳が描かれて先が黒く塗られたら、
「レオ〜! ジャングル大帝〜!!」とにかくKと二人で会場の誰よりはやくと叫びましたね。
先生は「そうそう」とニコニコしながら絵を描かれてて、仕上がると「じゃあこれ欲しい人いるかな」と模造紙をはがして壇上から呼びかけるのですが、そんなん欲しくない人いるわけないですやん。
会場全員「ハーイ!ハーイ!!」と手が上がって、ぼくらも必死で上げるのですが、先生は「じゃあ、あなた」と、会場の前の方のちっちゃい女の子やお母さんにだっこされた二、三歳の幼児におしげもなく丸めた模造紙を「ハイ」と。
マンガの神様直筆の大きなアトム、レオ、ヒゲオヤジ、ブラックジャックが次々とガキの手に・・。
くやしかったですねー(笑)。
「じゃあ、最後の一枚。これはわかるかなー」ということで、ぼくもKも今度こそと身を乗り出すのですが、ところがこれがわからない。
最初にビューッと2本の長いツノが描かれて、次に紙の下の方に丸いお皿のようなものが。
「あれなんや?」「うさぎ? W3のノッコちゃうか?」
まさか僕らわからん手塚キャラがあるはずないやんか? でもなんやあれ? わ、わからん!?
僕もKもパニックです。先生も、わざとあっちを描いたりこっちを描いたりと、会場を眺めてニコニコしながらちょとずつ手を加えられていくのですが、まったくわからん。
そのとき会場のどこかから大人の声で、「サファイア!」。
え、まさか、なんであれが「リボンの騎士」のサファイアなんやと思ったとたん、
「正解!」とおっしゃられた手塚先生がビリッと模造紙をひきはがし、ぐるっと天地をひっくり返して、ササッと線をつないで顔を入れるじゃあないですか!
「すごい、サファイアや・・!」
僕もKも絶句でした。
なんと手塚先生、サファイアをさかさまに描いておられたのです。
しかも最初に脚、次は帽子、次は剣、それから左右のちょうちん袖と、バラバラの描き順で。
とにかく驚いたのは、ひっくり返して完成したその絵のデッサン・ポーズが、まさに完璧だったこと。
なんの歪みもなく、脚が長過ぎるとか、帽子が小さすぎるとか、いっさいなかったですね。
神業やと思いました。頭の中どんななんや? どんなふうに絵が見えてるんや?と。
今思うと、いかにも手塚先生らしいパフォーマンスだったなぁと。
子どもたちが驚くのが愉快でたまらないという感じでした。
ある意味、子どもを前に大人げないともいえそうな、圧倒的な、
「どうですみなさん! ぼくすごいでしょう!」と言いたそうなくらい実に満足げな。
実際、あんなことできる人はなかなかいないでしょう。
たんに絵がうまいというのとは違う、独特の回路というか空間認識というか、
アニメーション作家らしいともいえるかもしれませんが、絵じゃなくて「記号」なんだというか。
手塚治虫という作家の特殊性を思い知らされた、なんとも不思議な、魔法のような体験でした。
最近、チャンピオン誌に連載されてた「ブラックジャック創作秘話」にも、手塚先生のいろいろな信じられないような創作マジックが描かれていますが、あのパフォーマンスを目撃した僕は、「先生ならやれるのかもしれない・・できたんだろな」と思います。信じられないけどね。でも、できたんだろうなと。
貴重な体験でした。
人生で天才の創作をまさに目の前で体験するってそんなにあることじゃないだろうから。
もちろん手塚先生の創作マジックのほんの一部分でしかないのだけれども。
でも十二分に衝撃でした。
ほんとにすごい人、
神様だったなぁと思います・・。